公開日:2026年2月12日
品質活動の中心となっているISO 9000シリーズは、現在、2026年の改定に向けて見直しが進められています。※1公開されている草案を見る限り、大きな枠組みは変わらないものの、品質と倫理観を大切にする組織文化や、気候変動・持続可能性への取り組みなど、時代に合わせた要素が盛り込まれる見通しです。これまで以上に、品質を“経営の視点”から考えることが求められる改定になりそうです。
また、DXの広がりにより、データを活用した新しいQMS(品質マネジメントシステム)のかたちも重要になってきました。品質研究の分野では、Industry 4.0(第4次産業革命)の考え方を取り入れた「品質 4.0(Quality 4.0)」というキーワードも登場し、デジタル技術と品質管理の結びつきが注目されています。
そこで今回は、品質管理の振り返りを手掛かりに、あらためて「品質を中心に据えた経営=品質経営」とはどのような姿なのかを考えてみたいと思います。
日本の品質管理(Quality Control)は、戦後復興が進む1950年代に転機を迎え、日本科学技術連盟を中心にアメリカの統計的品質管理(SQC)が導入され、これが日本の品質活動の出発点といえます。1960年代には、現場の自発的な改善を促すQCサークル活動が一気に広がり、モノづくりの現場に品質向上の文化が根づきました。
さらに、品質の優れた企業に贈られるデミング賞の存在が、企業にとって大きな目標となり、受賞をめざした全社的活動、いわゆるTQCが盛んになります。1970年代後半には『ジャパン・アズ・ナンバーワン』※2が刊行され、日本の鉄鋼・自動車産業などの品質が世界から高く評価されました。高度成長期を迎え、生活の中に工業製品が急速に普及したことも相まって、品質そのものが競争力の源泉となった時代だといえます(飯塚ほか、2014)。そして1990年代に入ると、品質活動はさらに「仕事の仕組み」へと進化します。ISO 9001の認証取得が企業に広く普及し、QMSの考え方が定着しました。加えて、1995年には製造物責任法(PL法)が施行され、企業は製品の安全性や消費者保護に対して、より高い責任を求められるようになりました。この時期、TQCはTQM(Total Quality Management)に呼称を変え、経営管理技術との融合を意識する方針変化があり、品質経営という概念が生み出された時期と考えます。
1995年~2010年頃、製造業にとっての大きな潮流がもう一つありました。グローバル化の急速な進展です。為替変動の影響やアジア各国の産業基盤の成長により、日本企業はタイやベトナムなどへ積極的に進出し、現地で日本向け製品を製造して逆輸入、もしくは他地域へ販売する、いまでは一般的になったモデルがこの時期に確立されていきました。さらに、中国では社会主義に市場経済を取り入れる政策が進み、日本企業は中国企業との合弁会社を次々と設立しました。これらによって、日本的な品質管理の考え方がアジア地域に一気に広がった時代ともいえます。そして、2010年頃には、企業は世界各地の拠点で得られる品質情報を共有しながら、改善のPDCAを回す「グローバルに通用する品質保証体制」を整えてきたと思います。この時期は、日本発の品質マネジメントが海外に展開され、国境を越えた品質文化を築いた重要な時代でした。
(図1)日本における品質活動の遷移
2010年頃、スマートフォンの普及と高速・大容量のデジタルサービスの拡大により、働く環境が大きくデジタル化し始めました。センサー類の高性能化・低価格化やネットワーク接続の進展により、身近な業務環境がデジタル化され、ペーパーレス化も急速に進みました。例えば、ハンコが電子承認に置き換わり、書類の山が消えていくのもこの時期です。
この流れと並行して、Industry 4.0の提唱を契機に、2015年頃から「データとデジタル技術を使って、品質管理の仕組みそのものを変革する」=Quality 4.0(品質4.0)の議論が始まりました。潘(2023)によると、Quality 4.0には大きく二つの捉え方があります。
いずれも、何をもって新しい品質管理の段階とするかについて明確な定義はないものの、Industry 4.0の技術が品質管理に影響を与える点は両者に共通しています。2026年現在、多くの企業でQMSのデジタル化(Digital QMS)が進展しています。記録の電子化、データ連携、検査のリアルタイム化、トレーサビリティなど、従来の紙書類中心のQMSがデジタルで再構築されてきました。検査工程の省人化・自動化に加え、AIを活用した「不良の予兆検知や事前予防」が現場のリアルな課題解決でしょう。「攻めの品質」や「未来先取り型の品質」といった標語が、企業内で活発に共有されている状況です。
2026年のISO改定では、経営者が品質に主体的に関与する姿勢がこれまで以上に求められる見通しです。今回の改定は「品質を経営の中心に据える」という方向性を明確に示すものであり、この流れの中で“品質経営”という概念が再び注目を集めています。ISO規格そのものに「品質経営」という語は登場しませんが、ISO 9000:2015の基本概念では、「トップマネジメントによる資源の最適活用」「組織内の支援」「人々の積極的参加」などが示されており、QMSを経営の中核に位置づける考え方が強く求められています。
品質経営のルーツをたどると、1951年に創設されたデミング賞に行き着きます。同賞は、企業活動のあらゆる側面を品質向上の視点から見直すことを求め、経営理念やトップのリーダーシップにまで踏み込む点が特徴でした。「品質を軸に経営を動かす」という思想は、この時点で明確に示されていたといえます。
もう一つの重要な枠組みとして、1988年に米国で創設されたマルコム・ボルドリッジ国家品質賞(以下、MB賞という)が挙げられます。国際競争力の低下に直面していた米国が、国家的施策として品質向上を推進するために設けたもので、日本のデミング賞の実績も制度設計に影響を与えました。MB賞は、経営戦略やリーダーシップ、組織文化など、トップマネジメントの実践をより重視する点に特徴があります。
日本では、TQCからTQMへの呼称変更が進んだ1996年に、日本生産性本部が「日本経営品質賞」を創設しました。同賞は、企業の社会的責任、顧客価値の創造、戦略的品質向上などを重視する枠組みとして普及し、品質に対する経営者の関与をより全面的に打ち出す制度として位置づけられます。デミング賞の伝統を踏まえつつ、経営全体の革新や価値創造まで範囲を広げた点が特徴です。
1995年から2010年頃にかけては、グローバル化の進展とISO認証制度の普及により、品質活動を企業の「仕事の仕組み」として体系化する考え方が広まりました。この時期、品質は単なる現場改善ではなく、企業運営を支える統合的な仕組みとして捉えるべきだという認識が強まりました。また、製品リコールや製造物責任(PL)、顧客満足の継続的な監視などが重要な経営課題として浮上し、トップマネジメントの関与が不可欠であることも明らかになりました。
経営学の領域でも、1990年代後半以降、品質と経営を統合的に捉える研究が増えてきました。これらの研究を概観し整理すると、大きく二つのアプローチが見えてきます。
認証取得によって従業員の品質意識が向上し、プロセス思考に基づく品質管理がどの程度実践されるのか、そしてそれらが品質成果や経営成果にどれほど寄与するのかを検証する研究です。この頃は認証制度の意義を巡って議論が高まり、審査費用や運用コストに見合う効果が得られているのかが問われ、「認証返上」の動きがメディアでも取り上げられた時期です。
CSRの観点では、地球環境の保護を目指し、特定有害物質の使用を制限するRoHS指令※3や、化学物質の適正管理を要求するREACH規制※4などが施行され、日本のリサイクル法も分別や再資源化が強化された時期です。また、性能データ改ざん・産地や賞味期限偽装といった、生活に密着する領域で品質不正が社会問題化した時期でもあります。品質ガバナンスの不備や組織文化に不正の根源を求める議論が盛んとなり、ボトムアップ型QMSの限界など日本的品質統制に批判的な研究が現れてきました。すなわち、デミング賞を受賞する企業であっても品質不正が発生するなど、新たな統制枠組みが要求されてきたといえます。
(図2)品質経営議論の構造
ここまでの議論から、品質マネジメントは「現場改善 → 仕組み化 → 品質と経営の統合 → デジタル活用」という段階を経て発展してきたと整理できます。現在では、品質活動とCSRを統合した「品質経営」の考え方が広がっており、経営層やミドルマネジメント層には、品質とCSRの双方を統制する役割が求められています。そのためには、膨大な情報を統括するデジタル活用による経営管理の仕組みが不可欠といえます。
CSRの実現には、投資家に対する情報開示(例:ESG)の要求に応える必要がありますが、グローバルサプライチェーンの拡大のために、その対応は格段に困難になっています。情報統括を怠ると、企業活動が社会問題化し、予期せぬ批判を受けるリスクが高まります。
これらの要求に応えるため、経営者自らが組織改革の旗を掲げ、品質保証を基盤とする品質経営を実践することが求められる時期です。品質が企業競争力の源泉であることは揺らぎませんが、要求される範囲が拡大している今日、それに応える新たな工夫と仕組みづくりが必要だといえます。
(図3)ISOの2026年改正で要求が強まるCSR
【参考文献】
飯塚悦功・金子雅明・住本守・山上裕司・丸山昇(2014)『進化する品質経営:事業の持続的成功を目指して』日科技連出版社。
大西謙(2016)「MB賞と日本経営品質賞の成立―生産性,品質,顧客満足(CS)概念を中心として―」『経営学論集』,Vol.55 No.4,pp.51-63(龍谷大学)。
鐘亜軍(2017)「品質管理の歴史的展開:日本版TQMを中心に」『環太平洋圏経営研究』第7号(桃山学院大学)。
デミング賞委員会(2022)「デミング賞の70年」日本科学技術連盟。
潘宝燕(2023)「新たな品質管理研究のトレンド「品質4.0」の理論展開と今後の展望」龍谷大学経営学論集63(2),pp.1-18。

1959年大阪市生まれ。神戸大学経営学研究科博士後期課程、博士(経営学)。ダイキン工業株式会社で空調機開発及び業務改革を実践後、2015年より電子システム事業部でITコンサルタントを担い現在に至る。2021年より現職。経営戦略、技術管理、IT活用、医療サービスマネジメントなどを研究。
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