公開日:2026年3月16日
近年の企業は、生成AIなどの急速な技術の進展や気候変動など、多くの予測困難な事象に直面しています。そうした時代にある企業にとって、今まで通用してきたビジネス・モデルが今後も持続可能かは不透明であり、企業には新たなチャレンジが求められています。では、具体的に何をすれば良いのでしょうか。開発者の方々にとっては、「新たな」製品づくりがまず思いつくことでしょう。ただし、この時の「新たな」には注意が必要です。今回は特に、これまで取り扱ってきた製品カテゴリーとは異なる「新たな」製品カテゴリーへの継続的な展開が重要である点について我々の研究成果である著書『「開発の基盤」構築論』(白桃書房,2025)の内容に基づいて説明したいと思います。
企業が取り扱う製品は、特定の製品カテゴリーに属し、その製品カテゴリーには自社だけではなく他社の製品も含まれることが一般的です。そのため、多くの企業は特定の製品カテゴリー内での競争を繰り返しています。その一方で、もしその製品カテゴリーの市場が縮小したり、製品カテゴリー内の競争が激化した場合、企業がその製品カテゴリー内にとどまっていたら、どうなることでしょうか。おそらくその企業の経営状況は悪化してしまうことでしょう。そのため、企業には特定の製品カテゴリーにこだわらない、新たな製品カテゴリーへの展開が求められます。しかも、一度新たな製品カテゴリーに展開して終わりではなく、新たな製品カテゴリーへの展開を継続することによって、企業は持続的な競争優位の獲得につなげられます。
たとえば、日本コカ・コーラ株式会社の事例で考えてみましょう。日本コカ・コーラはアメリカ本社で開発された製品を日本に導入する形で事業を開始し、当初の主力製品は「コカ・コーラ」をはじめとした炭酸飲料でした。その後、同社は、新たに缶コーヒー「ジョージア」、お茶飲料「爽健美茶」、スポーツドリンク「アクエリアス」など様々な製品を開発していきます(多田,2014)。このように同社は、多様な製品を継続的に展開することなどによって、成長を続け、現在に至ります。
現在の日本では様々な清涼飲料水の製品カテゴリーが乱立する状態です。もし同社が、炭酸飲料という特定の製品カテゴリーにとどまって事業を続けていたら、果たして現在のようになることができたでしょうか。おそらく無理だったのではないかと考えます。様々な清涼飲料水の製品カテゴリーが誕生する日本市場の特性を考え、同社は新たな製品カテゴリーに展開し続けるという意思決定を行い、競争優位を獲得してきました。「コカ・コーラ」という世界的な超優良ブランドを有する企業であっても、特定の製品カテゴリーにこだわらず、次々と新たな製品カテゴリーに継続的に展開していったわけです。読者の皆様の中には現在優良なブランドや競争力を持つ製品の開発に携わっている方もおられるかもしれません。しかし、特定の製品カテゴリー内にとどまり続けることが本当に正しいのか、日本コカ・コーラの歴史を踏まえて、改めて考えてみる必要があると思います。
では、どのようにすれば、新たな製品カテゴリーへの展開を実現できるのでしょうか。一つはコア技術戦略を実践することです。なお、コア技術戦略とは「コア技術を活用し競合企業との差別化を図りつつ、複数の市場に製品を展開していく戦略」のことです(延岡,2006,p.104)。
多くの企業には、既に自らが培ってきた優れた技術が多数あります。特に日本企業の場合、技術力に長けるという評価を得ることも多かったことから、技術を軸にして新たな製品づくりに努めてきました。そのため、コア技術戦略は多くの日本企業にとっても馴染みやすく、実践しやすい戦略であると考えられます。
しかし、コア技術戦略のような技術を軸にした製品開発だと、技術の適用範囲には限りがあるため、展開先の製品カテゴリーの範囲を狭めてしまう可能性があると我々は考えています。技術を軸にした製品開発は、同一製品カテゴリー内での効率的な開発を促進するかもしれませんが、多様な製品カテゴリーへの継続的な展開は難しいかもしれません。
そこで、我々が提唱するのは「製品コンセプトを軸にした製品開発」です。製品コンセプトとは「開発メンバーたちの製品に対する理解を進める足場となる一方、顧客にとっての価値の源泉となる考え方」のことです。製品コンセプトを軸にすることによって、企業側は軸を持った製品開発を進めることができるようになり、顧客は製品がもたらす価値を理解しやすくなります。
製品コンセプトは、言葉などで表現されます。そのため、製品コンセプトに対する認識やイメージは、人によって異なることがあります。その違いは、時として製品開発の方向性を変えることがあります。つまり、製品コンセプトを軸にすれば、既存の製品カテゴリーとは異なる、新たな製品カテゴリーへの展開を実現できる可能性が広がるわけです。
例を挙げて考えてみましょう。たとえば、アップル社は「Freedom(自由)」という製品コンセプトを軸にし、マッキントッシュ、iPhone、iPadなど革新的な製品を次々と生み出してきました(延岡,2021)。このように「製品コンセプトを軸にした製品開発」は、「技術を軸にした製品開発」では難しかった多様な製品カテゴリーへの継続的な展開を可能にします。
以上の議論を図示したものが、図表1です。この図表は、技術よりも製品コンセプトを軸にした製品開発の方が開発対象の範囲を広く設定できることを示しています。
(図表1)「製品コンセプトを軸にした製品開発」の可能性
出典:陰山・竹内(2025)
では、多様な製品カテゴリーへの継続的な展開を実現できる製品コンセプトとはどのようなものでしょうか。我々は、図表2が示すような特徴を有する卓越した製品コンセプトが、その実現を可能にすると考えています。
(図表2)卓越した製品コンセプトの特徴
出典:楠木(2010)
図表2が示すように卓越した製品コンセプトとは、多くの人々が望む普遍性や永続性を有する製品コンセプトであるといえるでしょう。先ほど示したアップル社の「Freedom(自由)」は、まさにその代表例です。小手先の差別化を意識した製品コンセプトでは、卓越した製品コンセプトにはなりえません。多くの人々が望む普遍性や永続性を有する製品コンセプトを考え抜く必要があります。
企業にとって持続的な競争優位の獲得は、非常に困難な目標です。しかし、今回我々が述べてきたように、「新たな」製品カテゴリーへの継続的な展開をすることがその一つの解になりえます。
そして、その際は「技術を軸にした製品開発」だけではなく、「製品コンセプトを軸にした製品開発」を行うことが重要な点であることについて述べてきました。もちろん開発者の方々は技術の高度化を目指す努力を怠ってはいけません。ただし、製品開発を進めるにあたって技術にだけこだわるのではなく、大切な製品コンセプトについて改めて考える機会を設けてみてはいかがでしょうか。自分たちが考え抜いて生み出した卓越した製品コンセプトが、明るい未来を創り続けると考えると、ワクワクしてきませんか。
なお、ここまで記載してきた内容は、我々の研究成果である著書『「開発の基盤」構築論』(白桃書房,2025)の内容に基づいてお届けしました。より理解を深めたい方は、こちらの方もよろしくお願い致します。
【参考文献】
陰山孔貴・竹内竜介(2025)『「開発の基盤」構築論:製品コンセプトを軸にした多様なカテゴリーへの継続的展開戦略』白桃書房。
楠木建(2010)『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』東洋経済新報社。
多田和美(2014)『グローバル製品開発戦略:日本コカ・コーラ社の成功と日本ペプシコ社の撤退』有斐閣。
延岡健太郎(2006)『MOT[技術経営]入門』日本経済新聞出版。
延岡健太郎(2021)『アート思考のものづくり』日本経済新聞出版。

1980年大阪府堺市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。博士(経営学)。2011年に横浜国立大学経営学部に専任講師として着任後、准教授を経て、2023年より現職。専門は「国際経営史」。主要業績として、『外資系製薬企業の進化史:社会関係資本の活用と日本での事業展開』(中央経済社,2018年)、ロバート・フィッツジェラルド『多国籍企業の世界史:グローバル時代の人・企業・国家』(早稲田大学出版部,2019年(川邉信雄・小林啓志・竹之内玲子と共訳))がある。企業家研究フォーラム賞(論文の部)、多国籍企業学会賞(学術研究奨励賞)、横浜国立大学令和5年度ベストティーチャー賞を受賞。

1977年大阪府豊中市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科にて電子・光子材料の研究を行った後、シャープ株式会社に入社。液晶パネルや白物家電事業、企業再建業務に携わる。神戸大学大学院経営学研究科修了。博士(経営学)。2013年から獨協大学経済学部経営学科に専任講師として着任後、2017年准教授、2022年関西大学商学部准教授を経て、2024年から現職。専門は「イノベーション・経営者論」。著書には『脱コモディティ化を実現する価値づくり:競合企業による共創メカニズム』(中央経済社,2019年)、『ビジネスマンに経営学が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング,2019年)、『できる人の共通点』(ダイヤモンド社,2018年)などがある。
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